Pub Antiquarian 『新青年』研究会のブログ

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7月10日(土)に、7月例会が専修大学神田校舎で開かれました。

発表は、末國善己さんの「国枝史郎の『恐怖街』について」でした。



末國善己さん「国枝史郎の『恐怖街』について」
末國善己さんが、2010年4月に、国枝史郎の翻訳書『恐怖街』(松光書院、1939年5月)を入手しました。
国枝が、イー・ドニ・ムニエやデボン・マーシャルといった架空の作家の翻訳という体裁で創作探偵小説を発表したのは有名ですが、『恐怖街』は正真正銘の翻訳書です。
収録作は以下の通り。『恐怖街』には、各作品の前に原著者および原題が記されていますので、それも併記しておきます。


G.T.フレミング・ロバーツ『地獄礼賛』(G. T.Fleming-Roberts“I love the dead”)
サンダース M.カミングス『恐怖街』(Saunder M.Cummings“Village of Doom”)
エドモンド・ハミルトン『獣人』(Edmond Hamilton“Beasts that once were men”)
H.M.アツペル『復讐に燃えて』(H.M.Appel“Virus of Vengeance”)
アーサー.J.バークス『クルダの索道』(Arthur J.Burks“Kurda's Corridor”)
フランク・ベルクナツプ・ロング『死のおもかげ』(Frank Belknap Long“Harvest of Dearth”)


パルプマガジンの書誌をまとめたMichael L.Cook&Stephen T.Miller“Mystery, Detective, and espionage fiction: a checklist of fiction in U.S. Pulp magazines,1915-1974”を参考にタネ本を探したところ、Beacon Magazinesの“Thrilling Mystery”1936年5月号にすべての作品が収録されていることが判明しました。
“Thrilling Mystery”の1936年5月号は、2010年4月にAdventure Houseから復刻されていまして、早速、購入して確認したところ、収録作は基本的に全訳であり、翻訳も当時のレベルを考えれば、決して悪くないことが分かりました。ちなみに、“Thrilling Mystery”の“Mystery”は、謎解きではなく、文字通り神秘の意味で、戦前のジャンル認識では広義の探偵小説となると思いますが、現代の感覚ではホラー、SF系の作品が中心になっています。
『恐怖街』が、一冊の雑誌をタネ本にしている事実から推測されるのは、国枝が何冊ものパルプマガジンから作品をセレクトしたのではなく、偶然、手にした雑誌をそのまま翻訳した可能性が高いことです。また、タネ本には全10作が収録されていますが、国枝が翻訳した6作のうち3作は表紙にタイトルが掲げられている“目玉作品”なので、これを参考にしたように思えます。タネ本の目次および作品の一部は、こちらで確認できます(http://www.amazon.com/Thrilling-Mystery-Adventure-House-Presents/dp/1597982946/ref=sr_1_4?ie=UTF8&qid=1301969551&sr=8-4)。
“Thrilling Mystery”の1936年5月号が復刻されていることからも分かる通り、この号には、エドモンド・ハミルトンやフランク・ベルナップ・ロングなど、後の大家の新人時代の作品が数多く収められています。その意味で、国枝が貴重な作品を翻訳したのは、偶然の可能性が高いとはいえ、運がよかったといえるでしょう。
なお、『恐怖街』は、2012年(もしかしたら13年になるかも)に作品社から刊行予定の末國善己編『国枝史郎伝奇風俗小説集成』(仮題)に全作品収録する予定です。