Pub Antiquarian 『新青年』研究会のブログ

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5月17日、5月例会が専修大学神田神保町校舎で開かれました。

発表は、黒岩裕市さんの「性欲学言説とその変容」と湯浅篤志さんの「素材としての映画---長田幹彦の場合」でした。


黒岩裕市さん「性欲学言説とその変容」
・大正時代に流行した性欲学において、同性への欲望を抱く者は特殊な「人種」と見なされるようになりました。そこで、クラフト=エビングの『変態性慾心理』(大2)、羽太鋭治・澤田順次郎共著の『変態性慾論』(大4)、あるいは、田中香涯が主幹した雑誌『変態性慾』(大11・5〜大14・6)に掲載された同性愛者の手紙などに目を向けて、そうした同性愛の「人種化」の過程をたどりました。そのうえで、江戸川乱歩の『一寸法師』(『朝日新聞』大15・12〜昭2・2)、『孤島の鬼』(『朝日』昭4・1〜昭5・2)の男性同性愛表象を検討しました。さらに、当時、「未開人」や「土人」がその「変態性慾」ゆえに注目されていた点を踏まえて、セクシュアリティ表象と人種表象の接点を探りました。


湯浅篤志さん「素材としての映画---長田幹彦の場合」
・小説家の長田幹彦は、大正の終わりに松竹蒲田の撮影所の顧問をしていて、実際に自分の小説『火焔の鼓』が映画化されるときには、監督のまねごとなどをしていました。さらに、「霧の小唄」(『苦楽』大14・2〜大15・6、途中休載あり)「撮影所秘聞」(『改造』大14・5)、「烏」(『改造』昭2・12)、「夜明前」(『講談倶楽部』昭4・1〜5、後に『女優部屋』と改題)などの作品には、映画女優やそれにあこがれる女性、騙された女性、裏方の映写技師や楽団の人たち、また撮影の風景や演技指導の場面を素材として取り上げました。同じく映画に興。を持った谷崎潤一郎久米正雄とは異なり、映画作成のプロセスでハードウェア的な側面を小説に取りこんだところに特徴があります。