Pub Antiquarian 『新青年』研究会のブログ

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2012年7月21日(土)に、7月例会が専修大学神田神保町校舎で開かれました。

・「乱歩で散歩(浅草編)」(2012年6月24日撮影)の上映
紀田順一郎著『乱歩彷徨 なぜ読み継がれるのか』(春風社、2011年)の読書会

7月例会は研究報告をお休みし、会員有志によって作成された文学散歩ビデオ「乱歩で散歩(浅草編)」(パイロット版)の上映と、紀田順一郎著『乱歩彷徨 なぜ読み継がれるのか』の読書会が行われました。


・「乱歩で散歩(浅草編)」(2012年6月24日撮影)の上映
これは浅草が舞台となっている江戸川乱歩の作品を現地の地理や歴史の紹介と絡めながら紹介する、当会の有志によって制作されたショートビデオです。

浅草の象徴とも言える雷門は江戸時代末期に火事で焼失しており、昭和35年に再建されるまで、ときどき仮の門が建てられる以外は存在していませんでした。また、乱歩作品に描かれている五重塔は移築前なので、現在とは異なる場所に位置にしていました。そうした歴史のトリビアや情報を交えながら、江戸川乱歩の作品を、動画+静止画で約13分の映像で紹介し、映像作品に仕上げたのが「乱歩で散歩」です。

 シナリオ執筆は平山雄一さん。補足は湯浅篤志さん。出演は湯浅さんと森永佳代さん。ディレクターは黒田明さん。平山さんが撮影、編集を担当しました。なお、この映像は、パイロット版なので、いずれ本編を作る予定になっています。

紀田順一郎著『乱歩彷徨 なぜ読み継がれるのか』(春風社、2011年)の読書会
紀田順一郎さんの著書『乱歩彷徨』について、ディスカッションが行われ、感想や意見が述べられました。

たとえば、「オールドタイマー(一部の乱歩作品をリアルタイムで読んでいた読者)としての切り口が見られず、書誌的アプローチも不足しており、既知の情報(定識)に依る記述が多い」とする指摘があったり、「作品のマッピングを取るような形なので、学生がポータルな乱歩像を理解し易い」という作品ガイド的な面が新たな読者層獲得の一因になるであろうとの感想も出たりしました。

さらに、「一人の『江戸川乱歩』という人物像の構築を試みたのではないか」との意見もありました。様々な視点から、『乱歩彷徨』への感想や意見が語られました。

また、乱歩没後、半世紀近く経っても読み継がれる江戸川乱歩の作品の魅力と関連して、昭和30年代に社会派推理小説ブームを巻き起こした松本清張の作品や、「三毛猫ホームズ」シリーズのヒットで流行作家となった赤川次郎の作品についても言及がありました。いずれもベストセラー作家であり、なおかつロングセラーのタイトルをもつ作家として、乱歩と共通する点が見られるからです。

清張作品には、「たとえば警察官による捜査ミスを隠蔽しようとするリアリティよりも、そのミスを隠そうとする人間のメンタリティを重視した作品」が多く、「そうした<人の心の弱さ>を描く内容が人々に支持されて長く読み継がれるのではないか」という特徴があり、それが乱歩作品とつながっているということです。

赤川作品については、作者の赤川が「肩の力を抜きながら<娯楽作品>として読める推理小説」を書き、「軽い文体で女性読者を取り込むことに成功したことにより、清張とは違う意味で作家としての長寿性を獲得したのだろう」という指摘がありました。そういう点において、乱歩作品と関連しているということです。